鉄板焼きのステーキ専門店で出されるようなステーキ肉であれば、4〜5ミリの厚さに削ぎ切りにして、表面をチャッチャッと焦がす程度に焼いて熱々のうちに食べればどんなに旨いことか。
まあステーキである以上、分厚い肉こそ身上という思い込みがあるのはやむをえないが、プロたる者は、こういう食べ方もあることを知って、鉄板焼きのメニューに加えてほしいものである。
炭火がいかにすぐれた熱源であるかは後述するとして、家庭事情では炭火焼きステーキはできにくいものだ。
私だって、家でステーキを焼くときは、ふつうフライパンだが、その場合でもそれなりの焼き方がある。
使用するフライパンだが、薄いものより分厚いものを使用する。
そのほうが、フライパンの温度が下がりにくく、熱回りが安定する。
また、溝のついたフライパンのほうがいい。
このタイプのフライパンは、溝に余分な脂肪が落ちるから、ステーキが脂っぽくなりにくく、最初から強火で焼くと、肉の表面に溝の跡が残る。
まず、焼き方だが、はじめに熱したフライパンにヘット(牛脂)を入れ、ニンニクのスライスを10枚ほど入れて、溶けた脂にニンニクの香りをつける。
ニンニクがキツネ色になったら取り出し、室温に戻しておいた牛肉を焼く。
冷蔵庫から出したばかりの肉は、中が冷たく、焼いても中まで熱が伝わりにくい。
また牛肉は、わらじのように大きく薄いものより、小さくても厚みがニセンチ以上あったほうがいい。
まあ、部位によって違いはあるが。
このときの火加減は中火以上。
200℃以上の高温で焼くことによって、肉の筋肉組織の表面が収縮して固まり、旨い肉汁を閉じ込められる。
また、表面の焼き目が香ばしく、食感も豊かにしてくれる。
塩・コショウをするのは、肉を焼きはじめて30秒ほどしてからである。
肉に塩・コショウするタイミングについては、焼く前と焼いている途中の二説があるが、私は肉が水っぽくならないように調理中に行うことにしている。
塩・コショウをしたら、火を中火と弱火の間くらいに落として、蓋をして蒸し焼きにする。
こうすると、オープンで焼いたときと同じように肉全体の温度が上がり、肉汁が細胞の間をめぐって、ぐっと旨味が引き出される。
ミディアムーレアに仕上げるのなら、蓋をしてからだいたい3分。
表面に少し血がにじみ出てきた頃が、ひっくり返すタイミングである。
私の好きなミディアムーレアは、血が出るか出ないかというのが頃合いで、フォークの先で肉を突き刺し、ゆっくり血がにじんでくるようならひっくり返す。
肉をひっくり返したら、ふたたび蓋をして、弱火で表面を焼いたのと同じ時間焼く。
そして、最後にブランデーを垂らして火をつけ、フランペしてから火をとめる。
ポイントはここからで、肉を皿に移したら、3分間ほどそのまま置いておく。
こうすると肉がしっとりして、さらに余熱で中心が温まるのだ。
このまま食べても十分に旨いが、ソースを作るときは、牛肉を焼いたフライパンに赤ワインを加え、やや強火でアルコール分を飛ばしながら、木ベラでフライパンにこびりついた肉の旨味をこそげとる。
沸騰してきたら塩・コショウーバターを入れ、少しとろみがついたら、ソースの完成である。
欧米式のもっともオーソドックスな牛肉の調理法がステーキだとすれば、日本式のそれはすき焼きだろう。
家によって作り方に違いが出る調理法である。
関東と関西でも作り方に違いがある。
関東では、割り下を使って肉と野菜をいっしょに煮焼きするが、関西では、最初に肉だけを砂糖と醤油でさっと焼いてから食べる。
野菜を入れるのは、ある程度、肉を堪能してからである。
我が家はといえば、割り下を使うという点では関東風だが、その食べ方は関西風に近い。
割り下は、だし1カップに対して、醤油3分の1、砂糖大さじ2を加えておく。
すき焼き鍋にヘットをまんべんなく引き、そこに肉を入れて両面をさっと焼いたら、割り下を少し垂らす。
やがて肉汁と割り下が焦げて、当然のごとく、食欲を司る中枢神経を直撃するようないい香りがしてくる。
ふつうなら、ここで野菜を投入してしばし待つ、ということになるが、我が家では、先に肉だけを食べ始める。
これは、すき焼き用の薄切り肉をうまく食べるコツでもある。
あっという間に火が通ってしまう薄切り肉は、野菜といっしょにさらに加熱すると、すき焼きならぬ。
すき煮になり、旨い肉汁は逃げ出してしまい、火が通りすぎて硬くなってしまう。
すき焼きの肉の食べ方は、さっと焼いた肉を楽しむ関西流に軍配を上げる。
しかし、一般に関西のすき焼きは甘すぎて、肉本来の味がわかりにくいと思う。
こうして数枚の肉を先に食べ、お腹が少し落ち着いたら、空になった鍋に肉を入れ、白菜、しらたき、焼き豆腐、春菊、シイタケなどのキノコ類、そしてタマネギか長ネギを入れ、割り下と日本酒を垂らして、頃合いで肉や野菜を食べる。
さて、この他に我が家の食べ方として、別のやり方をすることもある。
野菜の空いたスペースに入れていっしょに。
煮るということはしない。
野菜や豆腐などを煮ている間、私が別のフライパンでさっと焼き、半分くらい火が通ったところで、煮えている野菜や豆腐の間に差し込むようにして鍋に戻す。
要するに、私は肉を。
煮るのを好まない。
しゃぶしゃぶにしても、なぜ、せっかくの肉の旨味をわざわざお湯の中に逃がすようなことをするのか不思議だと思う。
肉をおいしく食べるには、やはり表面を焼いて、旨味を閉じ込めるのがベストの方法なのだ。
ただし、豚しゃぶは好きである。
すき焼きなどを仕切る。
鍋奉行は、どなたも「自分の方法こそベスト」だと思っているはずだが、一度、お試しあれ。
話を戻して、ここで肉や魚を焼くときの、炭火の効果について明らかにしておこう。
私はさまざまな試作をするが、あるとき、肉、魚、野菜などの食材を、それぞれ炭火、ガス火、そして電熱器で焼き、それぞれ上火の場合、下火の場合、両火の場合についてその違いを実験した。
ここでは、うなぎを下火の炭火と、下火のガス火で焼いたときの結果を紹介しておこう(上火の場合、煙の成分が肉につかない。
また、肉が乾いてそってしまい、旨味は少ない)。
まずは下火のガス火で焼いた場合だが、すぐに表面が焦げはじめ、いまにも食べられそうな状態になった。
しかし、そのときのうなぎの中心温度を測るとわずか44℃。
硬く、冷たい状態で、コリコリしていて、とても食べるには適さない段階だった。
次の段階として、うなぎがそれ以上焦げないよう、火加減を調節して焼き上がりを待った。
しかし、最終的に中心温度は70℃までしか上がらなかった。
注意して焼いたのだが、表面は黒焦げ状態になってしまい、あの、うなぎがとろけるような味わいは望むべくもなかった。
一方の炭火には、備長炭を使った。
炭に火をつけただけの状態では400℃だが、うちわであおぐと、なんと炭は900℃まで上がった。
しかし、うなぎと炭火の間の空気は280℃までにしかならない。
これは、うちわであおぐことによって、うなぎと炭火の間の空気が次々に飛ばされたからである。
それでも、うなぎにしっかり熱が伝わるところが炭火の優れたところ。
炭火の遠赤外線効果によって、うなぎの中心にまですーっと火が入っていくのである。
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